初恋(H4)

いつごろからだったろう、その子のことが気になりはじめたのは。
小学校6年の頃の僕は、どちらかというと賑やかな性格だった。目立つのが好きで、その上、級友からは「へりくつ王」と呼ばれていた。ところが、その子は本が好きなおとなしい性格だった。内気とまではいかないが、物事をじっくりと考える方で、落ち着いた感じのする子だった。お互いの性格はかなり違うのだが、それでも好きになったのは、自分にはないその落ち着いた雰囲気に引かれたのかもしれない。
その子と僕は、仲は悪くなかった。いや、良かったといってもいいだろう。ただ、その子は誰とでも仲良くする人で、自分だけが特別だったわけではない。それでも、向こうも自分のことを好きなのかな?などと考え、見せ場なんかでは、はりきっていた。その頃に、好きな子が見てるから、頑張ってかっこよく見せたい、逆に、好きな子が見てるからそのまま逃げ出したい、という気持ちを知った。その子を気にし始めた頃から、自分の性格は変わりつつあった。その子に影響されたのかどうか定かではないが、おとなしい性格になっていった。その子の影響といよりむしろその子に大人っぽいところを見せて、自分を意識してもらいたいという気持ちが大きかったのかもしれない。どちらにしろ、その頃に現在の性格に変わっていったのは事実だ。それが自分にとって良かったのか悪かったのか、分かるのはもっと先だろう。だがどちらにしても恋というものは、人間の性格を変えてしまうだけの力を持っているようだ。
小学校を卒業するとその子は引っ越してしまい、当然中学校も違ってしまった。それ以来逢うこともなければ手紙を出すこともなかった。卒業と同時に、僕の初恋も終わったようだ。